KPUM膝関節症研究グループ

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研究プロジェクト

  • 1. 関節軟骨加温による軟骨変性抑制を目指す研究

     現在まで変形性膝関節症(OA)を予防し、完全に進行を抑制する保存療法は開発されていない。われわれはこれまでに、関節に対する温熱刺激が関節軟骨の基質代謝を改善させること、温熱によって誘導される熱ショックタンパク質 (heat shock protein 70;HSP70)がOAの病態進行に重要である関節軟骨細胞のアポトーシスを抑制し軟骨保護作用があること、関節内温度を約40℃ に加温すると軟骨基質の主要成分であるproteoglycan およびtype II collagen の発現が強く亢進し、動物モデルのOAを抑制することを報告してきた(Arai Y et al., J Rheumatol 1997, Kubo T et al., J Rheumatol 2001, Terauchi R et al., Arthritis Rheum 2003, Tonomura H et al., Oateoarthritis Cartilage 2006, Fujita S et al., J Orthop Res 2012)。これらの研究結果から組織深部まで温熱刺激を与えることのできるラジオ波を用いて膝OAに対する臨床研究を行った。その結果、関節軟骨に対する直接的な効果以外に著明な関節機能改善効果があることがわかった(Takahashi K et al., J Orthop Sci 2011)。しかし、この研究に用いたラジオ波温熱器は主に進行・末期の悪性腫瘍に対する補助療法として用いられているもので高価でサイズが大きく関節治療のための普及は困難である。 一方現在普及している温熱治療器では関節深部の加温は困難であることを確認している (Thermotherapy for Rheumatoid Arthritis using resonant cavity applicator, Takahashi K et al. ,7th European Conference on Antennas and Propagation 2013)。

     安静時の膝関節内温度は約32℃であるが(Zampeli E et al., Plos One 2013)、動作時の関節内温度は明らかでない。人工関節では歩行時に関節内が6-8℃上昇することが侵襲的に確認した臨床研究で報告されている(Pritchett JW et al. , J Long Term Eff Med Implants)。このことから通常の膝関節は動作によってある程度の温度上昇が期待できる。生体で動作時の関節内温度を非侵襲的に測定する方法があれば、40℃まで関節を加温できる簡便な運動療法の確立を目指すことができる。運動療法によって関節を加温できないことが判明した場合でも関節に応用可能な深部温熱治療器の開発に活用することができる。以上の点から以下の3つのプロジェクトを推進している。

    MRIによる非侵襲温度分布モニタリングを指標とした関節深部加温法の開発
    (東海大理工学部、国際医療福祉大学整形外科)(科研費課題番号26350633)

     近年非侵襲的な身体深部の温度計測にMRIを用いる試みがなされている。MRIによる非侵襲温度計測は治療対象となる組織の特性によりいくつかの手法が提案されている。関節温度を計測した報告はないが、水分含量が少ない関節軟骨では体内に存在する水プロトンの化学シフトの温度依存性を利用し、加温前後の複素MR信号の位相差を温度差に換算する位相分布画像化法(Proton Resonance Frequency Thermometry)が有効であると考えられる。またMRIによる組織識別能力と温度分布画像化能力を組み合わせて温熱療法時の関節各組織での加温状況が把握できる可能性がある。

    MRIによる組織温度計測の原理(温度による水プロトン化学シフト)

    ω:水プロトン磁気共鳴周波数、σ:プロトン周囲の電子雲による遮蔽効果 BO:単位面積あたりの磁束量 γ: 磁気回転比. 温度が上昇すると水分子の運動によって水素結合がゆるみ遮蔽効果が大きくなって水プロトン磁気共鳴周波数が上昇する。以下は軟骨サンプルをレーザーで加温した際のMRIによる画像化を示す。

    超音波温度モニタリングを指標とした膝関節抗加齢療法の開発
    (明治大理工学部、八戸工業高等専門学校、国際医療福祉大学整形外科) (科研費課題番号17K01475)

     本研究は超音波を用いた非侵襲的な関節内温度測定法を開発し、関節内温度の観点からOA予防に推奨できる負担の少ない膝抗加齢療法を構築することを目的とする。
    近年の超音波診断装置は高周波探触子(プローブ)の開発、画像処理技術の飛躍的な向上によって高分解能の画像が簡単に得られるようになった。多くの診療科で日常診療に欠かせないツールであり、運動器の領域でも急速に普及しつつある。空間分解能の向上がめざましくリアルタイムの動的観察ができる。注目したのは超音波診断装置は音速を一定として画像を描画することから組織内温度が上昇すると画像が極わずかに伸縮するという特徴である。この伸縮程度を組織の温度変化として画像化できる画期的なアルゴリズムを研究分担者の井関が開発している(Iseki Y, Takahashi K, et al. Thermal Medicine, 2017)。

    筋肉当価寒天を用いた温度変化による超音波画像変化

     超音波プローブは生体に当てる際の圧力、前額面、矢状面の三次元的な角度によって得られる画像が容易に変化する。同一座標にプローブを設置するためのロボットアームを用いた装置を開発している(図1)この装置を用いて動作時のヒトの関節内温度を確立した手法で非侵襲的に計測する。若年者、壮年者、高齢者それぞれで可能な運動療法をさまざまな強度で行い各組織の温度変化を観察する(図1、図2)。軟骨変性抑制効果がある約40℃に温度上昇可能か検討する。また各種温熱治療器による関節深部の加温効果を検討する。関節温度上昇を行える膝運動を高齢者が無理なく行える自動運動器を市販のペダルエクササイス器を参考にして開発する。簡便に行える抗加齢運動として普及可能な装置を目標とする。

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    リエントラント型空胴共振加温器による膝温熱療法の治療効果解析
    (明治大理工学部、東洋大学工学部、国際医療福祉大学整形外科) (科研費課題番号17K01475)

     関節深部を加温する簡便な方法は普及していない。共同研究者の加藤らはコンピュータによる加温シミュレーション(Shindo Y, et al. Thermal Med 30;1-12,2014)(図2)および動物実験(Shindo Y, et al. Thermal Med 30;13-25,2014)(図3)でリエントラント型空胴共振加温器(図1)によって膝関節深部の軟骨の加温が可能なことを報告している。この加温装置の出力は小さく熱傷が生じる危険性は極めて少ない。健常膝および変形性膝関節症(膝OA)に対しリエントラント型空胴共振加温器を用いた温熱療法を行い、安全性の確認と臨床症状におよぼす影響を解析する。国際医療福祉大学倫理委員会で臨床研究が承認されている(承認番号13-B-248)。

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     2017年10月29日 リエントラント型空胴共振加温器による膝加温研究を行いました。寒天ファントムで使用機の加温特性を確認した後に3名の健常膝に30W 20分照射しました。関節深部が加温されていることはほとんど自覚されず皮膚温の上昇は軽度でした。加温後3日で有害事象はありませんでした。今後さらに詳細に安全性と加温特性を確認する予定です。2018年から膝関節症に対する臨床効果を調べていきます。

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  • 2. 膝関節症発生要因としての回旋不安定性解析

     われわれはMRI T1ρ mappingを用いた初期膝OAの解析から青壮年期の内側半月板後節/後角変性断裂が関節軟骨変性と膝OAの進行に関連することを明らかにしてきた。しかし、内側半月板の変性が引き起こされるメカニズムは明らかにされていない。近年キネマティクス解析から膝OAで屈曲伸展時の生理的な下腿回旋運動が破綻していることが報告されている。本研究はフルオロスコピーおよびMRIの三次元構築画像を用いて下腿回旋異常が内側半月板後節断裂および軟骨変性を惹起するという仮説を立証し下腿回旋キネマティクス是正による壮年期膝OA発生進行予防法開発のデータを蓄積することを目的とする。現在稲波脊椎・関節病院で日本医大の倫理委員会承認のもと臨床研究を行っている。

    <臨床研究概要>
    研究名
    変形性膝関節症に対する膝回旋エクササイスの治療効果解析
    臨床研究の実施体制
    1.研究機関の名称 (診療科名)
    稲波脊椎関節病院 (リハ、画像撮影、臨床症状の調査を行う)
    日本医大整形外科リウマチ外科 (データ解析、論文作成を行う)
    2.研究者等の氏名、所属、職名、役割分担
    研究責任者:国際医療福祉大学整形外科 教授 
    日本医科大学研究員      高橋謙治 
    (研究統括、症例の選定を行う。)Tel:03-3822-2131(内線6742)
    研究分担者:日本医大整形外科リウマチ外科 教授 高井信朗 
    (研究費の管理を行う。)Tel:03-3822-2131(内線6742)
    研究分担者:稲波脊椎関節病院 副院長 湯澤洋平
    (リハ実施場所における管理と調整、個人情報の管理を行う。) Tel:03-3450-1773

    臨床研究の実施概要

    [I. 膝キネマティクスの解析] 40〜70歳の膝痛症例に対し膝関節キネマティクスの解析を行う。CT画像から作成する3D骨モデル画像と被検者の歩行膝関節のfluoroscopyから得られた透視画像から、精密な関節キネマティクスを解析可能な3D-to-2D registration techniqueを行う。歩行時の脛骨前方偏位、脛骨内転角度および下腿外旋角度に顆間窩形態分類間で有意差がないか統計学的に検討する。関節軟骨変性を3テスラMR機(Philips社製)によるT2 mappingで解析する。ワークステーションで関節軟骨内にROIを設定し、変性軟骨の表面積を定量的に評価する。T2 mappingは三次元構築し軟骨変性部位を検討する。

    [II.下腿回旋キネマティクス是正のリハおよび対照リハ] Iでリハ臨床研究参加に同意が得られた患者を回旋リハ治療群および対照非回旋リハ治療群の2群にわける。両群への割付はランダム化とする。目標症例数は検出力予想から各30例とする。回旋リハ治療群には理学療法士の指導のもと下腿回旋キネマティクス是正のリハビリテーションを行う。対照非回旋リハ治療群は従来整形外科クリニックで行われてきた大腿四頭筋エクササイスを指導する。各リハは稲波脊椎・関節病院リハ室で週1-2回の頻度で6カ月間行う。リハ開始後6カ月および1年で膝MRIを撮像し軟骨変性の変化を解析する。同時にキネマティクス解析を行い下腿回旋異常が是正されているか評価する。JOAスコア、JKOM、visual analogue scale (VAS)、WOMACによる臨床症状の変化を記録する。

  • 3. MRIによる膝関節症病態研究

    われわれはこれまでに軟骨の質的評価にT1ρ mappingが有用であること(日本整形外科学会学術集会2015)(図1)、300症例以上の解析で内側半月板の後節・後角の異常像が軟骨変性と有意に関連すること(Takahashi K, et al. Eur J Radiol 2015) (図2)を報告してきた。半月板には円周状に走行するcircumferential collagen fiberによって負荷に抗するhoop stressが働く。半月板後節で脛骨へのinsertion ligament が破綻すると半月板は内側へ逸脱し軸圧が荷重部に集中する。これが軟骨変性の原因となりえることが数多く報告されている(図3)。われわれの研究では内側半月板の後節・後角に異常像を認めた場合、年齢が若く単純X線検査で異常が認められない場合でもすでに内側大腿脛骨関節軟骨の変性が生じていた。

     さらにX線学的に変形の少ない初期変形性膝関節症において脛骨後方傾斜が脛骨内側関節軟骨の変性に関与すること(Takahashi K, et al. Modern Rheumatology, in press)、膝蓋下脂肪体の体積が軟骨変性の保存療法改善例では減少すること(正木 直ら、日本関節病学会2016, 2017発表)、T2 mappingでの内側骨棘周囲の異常像が膝関節症の予測因子となること(渡部 寛ら、日本関節病学会2017発表)を発見しさらなる解析をすすめている。