高齢者の膝の痛み、関節症だけではありません
しっかり膝の所見をみる大切さを改めて感じた患者さんの例をご紹介します。
72歳女性、左膝痛、「左膝がまがらない」という訴えで受診されました。
4ヵ月前から痛みが出現し接骨院や他の整形クリニックでよくならず、むしろまがりにくくなってきたと来院されました。
単純X線では両膝とも変形性関節症の所見は軽度です。
左膝進展0°、屈曲100°、膝窩部に軽度の圧痛があります。
左膝の訴えであったにもかかわらず間違って右膝のMRIを撮像してしまいました(反省)。丁寧にお詫びをして患者さんの負担なしに患側の左膝MRIを撮り直しました。
左膝関節のMRIはわずかに内側荷重部の軟骨の変性がみられる程度です。むしろ症状がない右膝は内側の軟骨が一部欠損しています。
膝窩部の圧痛があるため後十字靱帯、膝窩筋やその付着部の損傷が疑われましたが異常像はありません。
間違って撮像した右膝と患側の左膝のMRIをじっくりくらべてみました。すると膝窩動脈の周囲の軟部組織(腓腹筋内外側頭にはさまれた部分)が瘢痕化しているのがわかりました。
よくエピソードをお聞きすると痛くなる少し前に左膝を捻ったそうです。接骨院で膝裏をマッサージしたり温熱療法をされたとか。おそらく外傷で膝窩筋など後方組織が傷み、急性期に安静がとれず、マッサージなどをしたために後方組織が瘢痕化したと思われます。
理学療法室で可動域訓練をおこなってもらい、疼痛、可動域制限は消失しました。
高齢者の膝痛をあまり診察せずに関節症や半月板変性と決めつけるのはよくありません。また一見MRIに異常がなくても丹念に膝を触診し読影すれば原因がみえてくることがあります。
今回はたまたま対側の膝MRIと比べることができました。普段の診療でも注意深く画像をみていこうと思います。